台風に乗って娘がやって来た日のこと

2019年9月9日。
直撃した台風の様子が気になって、夫氏と二人、窓を叩く雨の様子を見ていました。

窓の隙間から滲んだ水が壁紙の裏に溜まり、明日管理会社に電話しないとねと言いながらベッドに入ったのが深夜2時頃。

ほのかな腹痛で目が覚める。
時計を見ると、5時半。寝てからまだ3時間も経っていない。

あれ、お腹壊したかな?前駆陣痛?
陣痛………じゃないよね。ない………よね?

念の為、間隔測ってみるか。

予定日までまだ9日あったのと、さほどの痛みではなかったので、この時点ではまだ念の為、という感覚でした。

アプリをダウンロードし測ってみると
6分間隔…………?!

いやいやまさか。
ひとまずベッドを出て、椅子に腰掛けて様子を見る。

プチ。
あ。

破水したのが6時半頃。
台風はいつの間にか行き過ぎ、雨はやんでいました。

着替えをすませてから夫氏を起こす。
ちょうど仕事が休みの日だったので、付き添ってもらえる。よかった。

病院に連絡して指示を仰ぐ。

自分に(落ち着いて落ち着いて)と
言い聞かせていた私は
実際まあまあ冷静に動けていたと思います。

台風による電車運転見合わせの影響でタクシーの配車に時間がかかるようだったので、その間にパンを食べておくことに。(夫氏が焼いてくれた)

病院に再度電話し少し遅くなる旨を伝え、夫氏にゴミ出しの指示などしている間にタクシー到着。

移動中、母にLINEを送り、ヤフオクで購入したベビーカーの出品者様に事情説明と入金が遅くなるかもしれないお詫びを伝える。

我ながら落ち着いた行動。いいぞ、私。

病院に着いたのは8時前。

この頃は陣痛もさほどではなくまだまだ余裕があって、夫氏に「産まれるのいつになるか分からないから職場行ってきなよ」などと言っていました。(仕事は休みだったけど、職場で所用を済ませる必要があったため)

助産師さんから指示を受けた夫氏が、パンとおむすびを買ってきてくれた。一口食べるもすぐに気持ち悪くなってしまう。

徐々に痛みが強くなる。

母到着。

「お義母さんにちょっと話してくるね」と廊下に出る夫氏。

一人になったのは、おそらくほんの数分。
この数分のなんと心細かったことか!
さっきまで「職場行ってきなよ」なんて言ってたのに、離れるのが怖い。

食べたものを吐いてしまう。

痛みがどんどん強くなる。

さっき助産師さんにいつ頃産まれそうか聞いた時「陣痛次第だからなんとも言えない、今日かもしれないし明日かもしれない」って言ってたな。(そりゃそう言うしかないよね)

この痛みが明日まで続くってマジか。

痛みには強い方なのでもう少し強がれるかと思っていたけれど、もうまったく余裕がなく、ただただ絶望的な気持ちになる。

意識が朦朧とする中で、私と同じくらい死にそうな顔をしている夫氏を少しでも心配させないように、取乱さないようにと、そればかり考える。

「赤ちゃんも頑張ってるんだと思って乗り切りました」というどこかで読んだ体験談を思い出す。そう言えば赤ちゃんのことに全然思いが至ってなかった。ごめん、自分のことで精一杯だ。

もう駄目だ。
世のお母さん達はこんな痛さをどうやって我慢したんだ。

痛い痛い痛い痛い痛い

「うん、もう分娩室に行こう」

えっ
もういいの?

助産師さんの言葉に驚くと同時にホッとする。明日まで我慢しなくていいんだ。

歩いて分娩室に移ったのが、おそらく12時頃。

分娩台に乗ってからは、いきめる分だけ痛みの発散方向があるので少しだけ余裕ができる。

息は吸うよりも吐く方を意識して。助産師さんの言葉に耳を傾ける。ちゃんと指示に従わなきゃ。問いかけには適切に応えて。

よし、出来てる出来てる。いいぞ私。

「次で出るよー」

いきむこと3ターン目で産まれてきた我が子。

あんなに痛かったけど、安産だったというのは自分でも分かりました。

あと数時間早く産気づいていたら、嵐の真っ只中で病院へ行くのも大変だったかもしれない。

あと数時間遅かったら、夫氏は職場へ行っていたかもしれない。

それが蓋を開けてみれば、夫氏にも母にも付き添ってもらえる絶好のタイミング。
なんて空気を読むんだこの子は。
すごい。すごいよ糸ちゃん。

2019年9月9日 月曜日
午後0時21分
2580g/45.1cm

ようこそ糸ちゃん!